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内定者の就活日記

Diary03

目力を込めて天命を待つ

四年制大学 卒業見込み/哲学専攻

2023年3月13日(月) エントリーシート提出

100文字以内で回答する質問が10問程度。学業や関心事、好きな作品についてなど。挫折体験を書く時は大抵、「しかしこうやって乗り越えました」と締めるものだが、100文字では挫折を説明するだけで精一杯だった。でも実際に大抵のことは挫折しっぱなしなので、リアルだった。短所に「楽観的ゆえに計画性が無い」と書いたが、ESを提出したのも締め切りの5分前だったので大変説得力があったと思う。志望理由は、新潮社の作品を通じて生きがいになるぐらいの“好き”に出会えたので、自分も作品の魅力を伝えることで人々の新たな“好き”を増やしたいから。400字の作文もあったが、直筆なので内容の前にまず字で落とされるんじゃないかとヒヤヒヤした。

2023年3月25日(土) 筆記試験

市販の問題集を一応めくり、そして直前まで二進法の解き方を復習したが、予想通り無意味だった。範囲は三井寿の台詞から自省録の作者までと幅広い。基本的には四択問題なので、五里霧中とはならなかった。文芸に関わらず、昨今の流行や歴史的なニュースなどを復習すれば多少は対策になるのかもしれない。数学は、速度を求めるものなどが数問。めちゃくちゃサービス問題であろうことはわかったが、自信は無い。でも、解いていて楽しい筆記試験だった。帰りの電車で問題を思い出しながら、答えをググった。

2023年4月21日(金) 一次面接

ESをもとに、主に好きな作品についての掘り下げがあった。他の出版社を受験していないことに驚かれた。新潮社でなければいけない理由は、文学を単なるエンタメではなく芸術としても扱う姿勢に共感したから。新潮社以外は、小売業やサービス業を受けていた。人の喜ぶ顔が見られるので、接客も好きだと言った。でも、自分の最も初歩的な原動力はやはり、自分だけの趣味的な「好き」を究めることだと思うので、新潮社が第一志望ですと説明した。最後の一言で、「出版社で働きたいわけではなくて、新潮社で働きたいんです」と真っ直ぐに目を見て伝えた。我ながらこれはかっこいいぞ、と思ったが、反応は「へぇ~」という感じだった。落ちた、と思いながら退室した。

2023年4月26日(水) 二次面接

中学の頃に小説『ロリータ』に出会って、文芸に目覚めたことについて話した。本文にちりばめられた些細な謎や、言われなければ気づかない言葉遊びや技法などを、丁寧に解説してくれる注釈が巻末にあったからこそ、浅学な自分でも魅力に気づくことができた。読書だけでも楽しいのに、文学研究という新たな楽しさにも気づかせてくれて、本当に世界観が変わった。自分もこういうことがしたい。などと熱く語っている間、妙に嬉しそうに聞いてくれるなと思っていたら、なんと面接官は『ロリータ』の編集者の方だった。好き勝手に喋った後にそう明かされたので、かなり衝撃的だった。衝撃的すぎて、それ以外に何を聞かれたかは全く覚えていない。

2023年5月10日(水) 三次面接

面接官は5名。履歴書にそった質問から、色々な方向へ話題が発展していく感じだった。マインドマップを作ると対策になるのかもしれない。具体的にどんな仕事がしたいか、という話も少しした。「好きな作家の一番好きな作品は?」などのオーソドックスな質問の方が答えに詰まった。とはいえ興味深そうに相槌を打ってもらえて、非常に話しやすかった。話しやすすぎて、話しすぎた。最近注目しているニュースについて、AIと創作の話題になった時はつい一人で勝手に盛り上がり、長いソロパートを披露してしまった。喋りすぎた、と気づいた時には面接は終わっており、文字通り血の気が引いた。やっちまったなぁ!と頭の中でクールポコ。がこちらを向いた。

2023年5月15日(月) 最終面接

面接官は8名。てっきり前後列に分かれているのかと思ったが、横一列のフォーメーションだった。選考中に意識していたのは、目力を込めること、それから「嘘をつかないこと」だった。「知らない」「わからない」は正直に言って、誤解があれば驕りも謙遜もせず全部訂正した。誠実なわけではなく、ただ不遜ながら、内定をもらえないことより、嘘や誤解で過大評価されることの方が怖かった。好きな会社だから尚更である。就活の態度は人によるが、個人的には正直に勝負した上で自分より会社に詳しい人が「君はここには合わなさそうだ」と判断したなら、それに従うのが賢明だと思った。強めの目力でそんな弱気なことを考えつつ、当たって砕けろ!と念じながら臨んだ。砕けなかった。

中学からの愛読書。本好きに怒られそうな有様をしている。風呂に持ち込んだり、通学鞄に忍ばせたりしているうちにこうなった。
かわいくて落ち着くので、選考中はずっと鞄に入れていた。
内定通知の3日後に買ったセルフ内定祝いのケーキ。というのは建前で、普通に食べたくて買った。

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