会社を知る
COMPANY
本棚の隙間から
四年制大学 既卒/法学専攻
2023年3月13日(月) エントリーシート提出
ぼんやりと法科大学院への進学を目指していたものの、あっけなく不合格通知を受けた秋から半年。あらためて大学院の志望理由書を読み返してみると、どこかぎこちない。法律がテーマでありながら、村上春樹さんや高橋和巳さんが登場したりする。目立ちすぎないように短い言葉で、本についての思いが綴られていた。小さいころから、本が好き。どうにかして、本と自分を繋げたがっていた。遠回りはやめて、本と真正面から向き合おうと決めた。新聞社やテレビ局も受けたけれど、出版社のエントリーシートを書いているときが一番、本との距離が縮まっていく気がした。
大学の同期たちが卒業を控える中、本棚に並ぶ背表紙を眺めてはパソコンのキーボードを叩く。新潮文庫が一番多いな。そういうことも、伝えてみよう。好きなように書こう。机に本が積み上がっていく。本棚の隙間がこちらを覗き始める。本づくりをする人になれたら一番いい、とわくわくしていた。
2023年3月25日(土) 筆記試験
ややギリギリに会場に着いた。最後列付近の席に座り、前方いっぱいに広がる受験生を見ると、少し落ち着いた。100問ある試験に所々躓きながらも、解き終える。新聞を読む以外、対策は特にしなかった。ここ一年ほどで話題になったコンテンツをおさらいすると効果があったかもしれない。
ついに選考がスタートしたと思うと興奮してしまって、帰りがけに「新潮社筆記試験会場」の看板を写真で撮った。今思えば、やや緊張感に欠けていたかもしれない。同期の卒業式の日でもあったので、スーツ姿のまま大学に寄る。秋卒業する覚悟を新たにした。
2023年4月21日(金) 一次面接
少し早く面接会場のある市ケ谷駅に着いたので、本屋に寄った。新潮社の出版物をじろじろ眺める。駅前でも本屋に入れば、動きがスローな人が多いので、リラックスできた。
穏やかに面接が始まる。面接官の方が頷きながら耳を傾けて下さるので落ち着くことができた。安心して話せた分、自分から他社の出版物について話す場面もあった。「新潮社ばかりではないのですね」と微笑みかけられて少しドキッとする。10分程度の短い時間だったが、社員の方としっかり本の話ができた充実感が残った。
2023年4月26日(水) 二次面接
短い質問が多かった。おのずと一問一答みたくなり、少し心配になる。エントリーシートでは触れなかったSF小説やノンフィクションも話題に上った。「お笑いはみるか」という質問には少し困った。お笑いはあまり詳しくないが、大学お笑いのライブには何度か足を運んだことがあるのを思い出し、その話をする。音楽の趣味に関連して、「その分野の人に書いてもらうとしたら誰?」と考えさせる質問もあった。色々な方向からの問いかけに追いつくのに一生懸命で、手ごたえはなかった。面接が終わった夜に、コンサートに行って、ひとまず面接の出来は忘れた。音楽の力はすごい。
2023年5月10日(水) 三次面接
会場の人数がグッと少なくなった。面接官の数が増え、採用サイトの写真でお見かけした方もいた。踏み込んだ質問が多かった。半年間の留年の経緯を聞かれる。堂々と答えることが大事だ。選考が進んでいた他社との違いなど、答えにくい質問も飛んでくる。「ものごとを考える際に軸としていること」など抽象的な質問もあった。
これまでの面接に比べて、緊張しなかった。やや空気は重かったが、自分の言葉を受け止めてもらえるという安心感が変わらずあった。言葉につまりそうになっても、落ち着くことができた。就活を始めてから、一番うまく話せた。もっと社員の方と話がしたい、面接だけで終わりにしたくない。新潮社で働きたい思いが、エントリーシートを書いたときの何倍にも膨れ上がっていた。
2023年5月15日(月) 最終面接
入室し、挨拶した声がいつもより高い。はじめて訪れる社屋、趣のある会議室。「緊張しているね?」と声をかけられ、素直に認める。話しやすい話題を選んでくださったのか、音楽の趣味の話から始まる。ビートルズやストーンズという言葉が飛び交い、徐々に肩の力が抜けていく。好きな作家の新刊が出ていたこともあり、感想を聞かれる。もりもり話せた。ゼミの専攻に関連した質問もあった。丁寧に話せた。徐々にしっかりと自分の言葉を伝えられるようになる。緊張も解け、勢いづいてきたなと感じた頃合いに、面接は終わってしまった。
帰り道、電車に揺られながら、頭の中は結果のことでいっぱいだ。受け答えだけでなく、些細なことまで気になり始める。面接後、階段を降りすぎて社員食堂まで出てしまい、行きと違う出口から帰ったこともかなりのマイナスに思えてきた。
帰宅。電話がかかってくる時間は決まっている。部屋の本棚は、面接の準備のために隙間だらけだ。机や床にも本や雑誌がたくさん散らばっている。パラパラめくりながら片づけて待つことにした。昔から、本棚をいじっていると、時間がさっと過ぎていく。スマホを視界から追いやり、本と自分だけになる。本との対話がつい始まってしまう。その繰り返しが心地いい。こういう時間を多くの人と分かち合いたい。そして、届けたい。着信音が鳴り響く。部屋中にちりばめられた本たちに勇気づけられ、スマホに手を伸ばす。
- 二次面接後に観た、青葉市子さんのコンサート。就活中も、出来るだけ観たいアーティストのライブには行った。音楽を聴いているときは、無心でいられた。
- 本棚に迎える喜びを収めたショット。このタイミングでの新刊は、私にとってかなりの追い風になった。村上春樹さん未読の方に、お勧めしたい一冊。
- 大学生の間お世話になった本棚。ちょっと変わったデザイン。板がたわんでしまった。引っ越しで廊下に引っ張り出したときになって、本棚の写真ってなかったなと気づく。