内定者の就活日記

Diary02

自分の言葉で喋ってみた

四年制大学 卒業見込み/メディア学専攻

エントリーシート提出

2024年3月12日(火)

 平凡な大学時代だった。強い「ガクチカ」もユニークな人生経験もなく、昼寝をしたりマンガを読んだりVTuberを見たりして、碌々と馬齢を重ねていた。就活も当然出遅れ組。本格的に始めたのは正月から。やばい。周りはみんな内定持ってる。焦る。
 そんな状況でも新潮社のESはニヤニヤ笑いながら書けた。一番書いていて楽しいESだった。100文字という短い文字数に「フック」をパズルのように詰め込む。おもしろい。具体的な作品を挙げる設問では、本の中身ではなく自分の人間性を説明できるよう意識した。トーマス・マンの教養小説を挙げてオタ活のバイブルとうそぶき、「成瀬は信じた道をいく」を引き合いに大学入学後の悩みをぶちまけた。作文課題だけは後悔が残る。出版就活本を参考に「こんなもんか」と仕上げてしまった。もっと自分なりの文章を書くべきだった。

適性検査・知能テスト(Web実施)

2024年3月19日(火)~28日(木)

 自宅にて自分のパソコンで受験。他社のWebテストで、受験可能期間の長さに甘えて受けるのを先延ばしにした結果、最終日にコロナに罹りながら問題を解くハメになったことがあった。反省をもとに、今回こそ計画的に! 早めに受けよう! と思っていた。でも結局、締切ギリギリに受けることに。学習能力×。
 対策としては、よくある問題集をチラッと見た程度。もちろん気合いを入れて勉強すべきだとはわかっていた。ここで落ちるのが一番もったいない。しかし、ついぞたいした対策はできなかった。それができる人は就活に出遅れない。私にできるのは「受かっててくれ!」とひたすら祈ること。それだけだった。

一次面接

2024年4月18日(木)

 遠方のためオンライン面接。
 小学生の頃、好きな子と目が合った時に、自分ではニッコリ微笑んだつもりだったのだが、「不気味な顔」と言われたことがある。以来、人前で笑うのを避けていた。だが、就活ではそうも言っていられない。相手の目を見て笑顔で話す。これだけを肝に銘じて面接に臨んだ。
 しかし、出鼻を挫かれた。オンラインだと、どうやら面接官のお二人からカメラが遠いようで、相手の目どころか顔もいまいち認識できなかった。自分の顔もどう見られているかわからない。困った。ただ、面接自体はスムーズかつ和やかに進めてもらえた。「あまりマンガを読まない私に合いそうなマンガをオススメしてみて」のようなオタク冥利につきる質問もあり、手応えこそなかったものの笑顔で面接を終えられた。

二次面接

2024年4月25日(木)

 パーテーション越しに優秀そうな受験者の声が聞こえてくる。みんなすごい。待機中の私は完全に気圧されていた。凡人が来る場所じゃなかったかも。なかば諦めムードのまま面接に突入する。
 「好きな『バンチ』作品は?」「ESに書いてある以外で、どんな企画立ててみたい?」「最近見た映画は?」「最近本屋で見つけた面白い本は?」
 いざ蓋を開けてみると、好きなものについて語れる質問ばかり。話していて自然と口角が上がった。たのしい。面接官のお二人が、フフッと微笑みながら興味深そうに話を聞いてくれていたのも印象深い。新潮社、いい! この人たちと働いてみたい! 諦め気分はどこへやら、通過を切に願って帰路についた。

三次面接

2024年5月8日(水)

 「まぁこれくらい書けば及第点でしょ」「こんなもんで単位はもらえるでしょ」安パイ狙いで無茶な冒険はしない、それが私の悪いクセだった。しかし、三次面接まで来れたのに安全策なんてありえない。一次と二次の通過を経て、凡俗な自分でも面接官の方はしっかり見てくれているように思えた。だから、どうせなら就活本に書いてあるような借り物の無難な言葉は捨てよう、自分の言葉で攻めのアピールに挑戦しようと決意した。
 書店に行くか聞かれたら「本屋での出会いは運命です。最近、棚差しされていた一冊の本が光ってみえました」。マンガを描いた経験については「昨年祖母が倒れて、認知症で私のことも忘れてしまいました。おばあちゃんっ子だったので、その時の感情を形にしたくて……」。歯の浮くような内容も、それが本心である限りまっすぐ伝えた。何度も言葉に詰まったし、的外れなことも言ってしまった。でも、出し切った感覚がたしかにあった。

最終面接

2024年5月13日(月)

 自覚している性格。好きな作家。実写化させるならどの小説か。他社を受けなかった理由。最終面接でも質問は多岐にわたった。前回同様、それっぽい作り置きの就活トークをするのではなく、その時点での自分ならではの喋りを心がけた。小学校での掃除の時間の思い出から最近あった飲み会での憂さ話まで、九牛一毛ほどの日常の記憶を掘り返し、自分という人間の説明に投じた。
 後日、人事部の方から採用理由を教えてもらえた。「自分の言葉で答えられていたから」。聞いた瞬間、自分の想いがちゃんと通じていたんだと感じられて、自ずとニヤけた。ガルシア=マルケスの言うように「何を生きたかよりも、何を記憶し、どのように語るか」なのだろう。平凡な人生だと思っていた。でも、そんなこと関係ない。自分の言葉で真摯に話せば、想いが届く、こともある。そう思えた就職活動だった。

紙では正規入手困難な古本たち。就活のために東京に行くと思うと足が重かったので、メインの用事は趣味の古本蒐集だと自分に言い聞かせていた。

琵琶湖一望。面接期間中は、話のタネになればと山に入ったり川沿いを県境までひたすら歩いたりしてリフレッシュしていた。

面接通過のご褒美は甘いもので決まり。写真は就活でも卒論でもお世話になった図書館への道中で買ったチーズケーキ。

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