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内定者の就活日記

Diary04

真面目すぎる、も悪くない

四年制大学 卒業見込み/法学専攻

エントリーシート

「あなたの好きな新潮社の本について“売るためのコピー”を書いてください」
 お祈りメール続きの日々、出版社への就職を諦めようとした矢先だった。ひさしぶりにわくわくした。書きたい、と思った。
 選んだのは、三浦しをん先生の『きみはポラリス』。ぼろぼろの文庫を、何度も、何度も、読み直した。ああでもない、こうでもない、とひたすらに書いた。さいごのさいごまで考えて、つむいだ23文字。きっと、これなら。

2022年3月26日(土) 筆記試験

 まだ手のひらがぐっしょりと濡れている。英語のレシピを読んで「おでん」を答える問題しか自信がなかった。ここで終わりなのかもしれない。

2022年4月21日(木) 一次面接

 エントリーシートに書いたことを聞かれているだけなのに、終始どもっていた。好きな作品、学生時代にがんばったこと、やってみたい仕事――頭のなかではくっきりしているものが、口にした瞬間にぼんやりと霞んでしまうようだった。やっぱり喋るのは苦手だ。それでも、まっすぐわたしを見つめてくれた面接官の瞳を信じたい。おねがい、伝わっていて。

2022年4月26日(火) 二次面接

 あれから5日間、ありったけの時間を面接練習に費やした。必死で書き上げた台本は30ページを超えていた。
「週刊新潮で取材してみたいテーマはありますか?」
 リハーサルどおりに文章を読み上げるが、面接官の表情は思わしくなかった。
「それ、読者は読みたいって思うかな?」
 わたしは黙り込んでしまった。そしてそのまま、面接は終わった。“次回までに考えてきます”と苦し紛れに伝えたが、きっとだめだろう。

2022年5月11日(水) 三次面接

 某社の最終面接の翌日だった。
「真面目すぎるから君はだめだね」
 そのことばが脳裏にこびりついていた。東京駅から大手町駅までを歩くあいだ、引き返そうと何度も考えた。でも、ここでは終われなかった。わたしのことばを信じて、きょうこの場に連れてきてくれたひとがいるから。
「キャッチコピーが光ってたよ」
 面接開始早々、ほしかったことばをもらった。褒められてうれしい、だけじゃない。わたしの努力を、真面目さを、肯定された気がした。やっぱり、来てよかった。絶対にこの会社に入りたい。

2022年5月16日(月) 最終面接

 就職活動さいごの日だった。これがだめなら、春には銀行員になると決めていた。
「うちは真面目なひとが多いよ」
 社の雰囲気を尋ねたわたしに、さらりと返ってきた答え。“どんぴしゃ”って、こういうときに使うのかな。この会社ならわたしは大丈夫。絶対に、この会社に入りたい。
 ぎゅっと携帯電話をにぎりしめていると、電話の音がした。

「あなたが恋だというのなら、それはきっと恋です。」
すべての恋心を肯定してくれる、わたしの人生の1冊です。

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