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内定者の就活日記

Diary02

『週刊新潮』周遊記

四年制大学 既卒/政治学専攻

2023年3月13日(月) エントリーシート提出

唯一意識したことは、「具体的に書く」ということだった。
新潮社の志望理由には、私淑する齋藤十一氏のことや、「気をつけろ 『佐川君』が歩いている」(『週刊新潮』1985年11月7日号)などに触れた。
趣味欄には、「90年代の女子プロレス鑑賞」「King&Prince鑑賞」「俳句の創作」と。
「○○の子」と覚えてもらえるように、「引っかかり」のあるものにしたつもりだ。
締め切り直前、エナジードリンクを飲みながら書いた、いわば「即席」のエントリーシートだった。
畏れ多くも齋藤氏のことを書くことができたり、趣味を恥ずかしげもなく披瀝できたりしたのは、締め切りまでの「ドタバタ」に依る所が大きかった。

2023年3月25日(土) 筆記試験

会場はTKPゲートタワービル。ビルの5階から7階部分には、阪神高速道路が貫通している。大阪ではそれなりに知られた建物だ。初めて生で見るビルに昂っていたが、エレベーターを降りると、その昂りは一瞬にして萎み、慄然とした。
西日本を中心に予想以上に多くの受験者が集まっていた。足が竦んだ。この大人数の中から、採用されるのはごくわずか。東京会場にはもっと多くの人がいるだろうから、もしかすると「ゼロ」かもしれない。
たたでさえ慣れないネクタイで苦しいのに、緊張でますます息が吸えなくなった。
果たして、自分がどれくらい正解しているのか。どれくらい正解すれば通過するのか。そもそも、スコアの善し悪しが通過の基準なのか。何も分からなかった。
振り返れば、一番辛かったのはこの筆記試験だった。

2023年4月21日(金) 一次面接

遠方のため、オンラインでの面接。
「今後の週刊誌はどうあるべきだと思う?」
 そう問われ、一通り回答した後にこう付け加えた。
「『週刊○○』や『週刊△△△』みたいな高齢者向けの雑誌にならないことが大切だと思います」
「口は災いの元」と母に折に触れて言われてきたが、面接でも言いたいことを好きなように言った。
 面接官のお二人は、こんな滅茶苦茶な他社批判も、笑って、面白がってくれた。
「放言」というべき発言は他にも……。かくの如く、面接は楽しく、自由なものだった。

2023年4月26日(水) 二次面接

「新潮の歩いた後にはペンペン草も生えない」
古い雑誌評論の本に、『週刊新潮』の取材力がこう評されていた。これを引用しながら、週刊誌への思いを伝えた。
「King&Prince可愛いよね」
「女子プロレスが好きなことは、どんどんアピールすると良いよ」
面接官は、私の趣味を肯定しただけでなく、今後の面接に役立ちそうなポイントも教えてくださった。
最後に『週刊新潮』のおすすめ記事を聞いた。
倍率の高い新潮社では、内定を貰えない可能性の方が大きい。ならば、聞きたいことを聞いて、すっきりした気分で帰ろうと思ったのだ(結果的に、役員面接までこの質問を続けることになった)。
この面接でおすすめされた記事は、「『補償金4420万円』の初適用となるか “法医学の権威”が『接種後死亡者』の『死因』欄に『コロナワクチン』と明記した理由」(2022年3月17日号)。

2023年5月10日(水) 三次面接

パーテーション越しに、ひとつ前の面接のやり取りが聞こえてきた。どうやら芳しくなかったようで……。私が入室してからも、ブースはまだ重々しい空気を湛えていた。
「『週刊新潮』と『週刊文春』の違いは何だと思う?」
「エントリーシートに書いていること以外で、してみたい取材は?」
 十の鋭い目が自分だけに向いている中、矢継ぎ早に質問が飛んできた。流汗淋漓。そんな緊張感の中でもこれだけは聞いて帰ろうと、例の質問。
 この面接でおすすめされた記事は、「なぜか弟のポスター大量掲示で“変な戦い”史上最年少『26歳芦屋市長』もう一つの顔」(2023年5月18日夏端月増大号)。
 なんと最新号の読みどころを教えていただいた。生来の楽天家だからだろうか。先程までの緊張などなんのその。その「戦果」に満足し、件の「芦屋市長」くらい爽やかな笑顔で帰路に就いた。

2023年5月15日(月) 最終面接

「なぜ90年代の女子プロレスが好きなの?」
「1990年11月14日の横浜文化体育館で行われた……」
そう理由を語っていると、面接官の何人かがクスッと笑った。
初めて訪れた新潮社本館。通されたのは瀟洒な雰囲気の会議室だった。そんな空間に緊張していたが、このプロレスの質問で平静を取り戻すことができた。
最後には例の質問。ここでのおすすめは「機密文書窃盗事件 美しい日本の美しくない日本人」(1972年4月22日号)。
面接を終え、羽田空港で飛行機を待っていると電話が鳴った。
「新潮社で一緒に働いてもらいたいと思います」
出版社に知り合いもいない。インターン経験などもない。ただ、人よりも多く週刊誌を読んでいただけだった。自分の「好き」という気持ちが通じた……。そんな感慨を噛みしめ、午後4時10分、心の中で快哉を叫んだ。

「佐川君」から「殿下」までが我が就活の支え。
何も知らぬまま「就活応援団長」を拝命した愛猫。
面接直後、カラオケに。(新潮社が)君を待ってる?

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