仕事を

SHINCHOSHA WORK

2023年の100冊。手書きPOPの作成も大事な仕事の1つ

「どんな人でも好きになれる一冊がある」
新潮文庫の100冊フェア

夏になると書店に並ぶ黄色い帯の新潮文庫。目に留まったものを手に取っては書棚に戻すことを繰り返して「これ!」という1冊を見つけた瞬間、今日という日が煌めき出した――。そんな思い出のある人は少なくないだろう。まもなく50周年を迎える新潮文庫100冊フェアの舞台裏をチームが語る。

新潮文庫編集部
O・Yさん
2004年入社。営業部を経て2006年より新潮文庫編集部。
2021年より文庫出版部nex編集室室長。
H・Mさん
2007年入社。小説新潮編集部、yomyom編集部を経て2014年より新潮文庫編集部。
営業部
K・Aさん
2010年入社。週刊新潮編集部を経て2014年より営業部。
現在は文庫・新書担当。
I・Kさん
2020年入社。営業部に配属。現在は文庫・新書担当。
プロモーション部
S・Mさん
デザイン会社を経て2016年入社。
広報宣伝部を経て2021年よりプロモーション部宣伝デザイン室。
2022年より宣伝デザイン室室長。
M・Nさん
デザイン会社を経て2022年入社。
プロモーション部宣伝デザイン室に配属。

K・A 突然ですが、みなさんは「新潮文庫の100冊」がいつ始まったか当然、知っていますよね?

I・K 小学生の時にはもう本屋さんで見ていたので、2000年以前なのは間違いなくて……。

K・A はい。もっと前ですね。

O・Y 私が中学生のときは宮沢りえさんがイメージキャラクターでした。懐かしいなあ。

K・A 91年~92年の2年間ですね。

H・M はい! 再来年の2026年が50周年の節目の年なので、えっと……始まったのは1976年!

K・A 正解です!

I・K 今日ここにいるメンバー、まだ誰も生まれていない!

O・Y 確かにそうだ~。

M・N そう言われると、すごく歴史を感じますね。

K・A というわけで今回は「新潮文庫の100冊」フェアについて、みんなで話したいと思います。

3000点の中から「今年の100冊」を選ぶ

O・Y 100冊フェアは、当時20代だった文庫編集部と営業部の同期コンビの雑談がきっかけで始まったと聞きました。昭和40年代に文庫創刊ラッシュがあって、各社に対抗するアイデアをいろいろ考えている中で、若い層、とりわけ中高生向けのフェアをやろうと企画が立ち上がりました。その意志は今も受け継がれていて、100冊の書名選びの際には、若い人が本を読む入り口になるようなラインナップを意識しています。

S・M 「新潮文庫の100冊」は出版業界の中でも最も大きなフェアの1つなので、新潮社にとっても文庫編集部、営業部、プロモーション部から成る部署横断チームを組んでの一大プロジェクトです。

I・K 実はもう2024年に向けての話が始まっているんですよね。

K・A 夏にフェアが終わると、早い年は9月から反省会をして翌年の目標を決めます。その後、年末年始から本格的にチームが始動する。まず決めるのは、書名です。
 約3000点ある新潮文庫の中から100冊を選ぶのは本当に大変。文庫編集部、営業部、プロモーション部がそれぞれ部員の意見を募るなどして翌年2月くらいまでに決めていくのですが、作品の内容を一番理解しているのはやっぱり編集者なので、どんな書名が今年の「100冊」にふさわしいのかという観点では、文庫編集部に頼っている部分が大きい。「100冊」は1年で一番売り上げないといけないフェアなので、文庫編集部のみなさんには、フェアに合わせて新刊の企画を進めてもらいながら、売り上げが立てられそうな超強力なラインナップをお願いしています。

O・Y ありがたいことに、作家の中には「新潮文庫の100冊」に憧れを持ってくださっている方が沢山います。自分の作品がラインナップに入るかもしれないということが、新潮社で作品を書いてくださる理由の1つになることもある。だからこそ毎年力を入れなければ、と強く思います。

S・M 以前は営業部と編集部とで、どの書名を入れるかで揉めたとか……。

O・Y 喧嘩していた時代はありましたね(笑)。編集部員はどうしても自分の担当作家や自分が作った作品を押したがるのですが、売り上げをシビアに見ている営業部から「この実績では難しいです」といった指摘が入ったりして……。

H・M 書名選びがひと段落すると、今度は3~4月にかけて、書店さんや学校図書館さんに配る小冊子を編集部で作成します。100冊に選ばれた作品を「恋する本」「シビレル本」「考える本」「ヤバイ本」「泣ける本」の5つのジャンルに分けて紹介します。それぞれ本文の中からキャッチコピーの代わりになるような印象的な文章を一行抜き出し、66文字の要約と書影を付ける。

O・Y 学校図書館の方から、この小冊子を分解したりカラーコピーしたりしたものを図書館に貼り出して「今年の夏に読みたい本を見つけてください」といったキャンペーンをやっていると聞いたことがあります。

K・A まさに狙い通り、若い人に届く素敵な活用法!

営業部総出で全国の書店に売り込む

I・K はい、僕は入社以来4年、営業部の文庫担当を務めてきましたが、今回初めて100冊フェアに携わって強く感じたのは、営業にとっても編集にとってもプロモーションにとっても、普段の仕事で得た知見を落とし込む総決算の場所だということです。

S・M 今は昔と違って、書店でただフェアを展開すればお客さんが買ってくれる時代ではありません。だからこそ、様々な部署が集まって、時代に合ったベストな方法を常に探っていく必要がありますよね。

I・K まさにおっしゃる通りだと思います。営業部は書籍、文庫、雑誌、コミックとジャンルによって担当が分かれています。ただ、それとは別にそれぞれが書店の担当エリアを持っているんですね。僕は北陸甲信越です。

K・A 書店さんに行くときは、ジャンルの担当に関係なく、新潮社から出ているすべての本を営業します。

I・K なかでも「100冊」は特別ですから、営業部員が全員総出で北から南まで出張に行き、担当する書店さんを回って売り込みます。

H・M 売り込みってどんなことをするんですか?

目玉作品には特別帯を施してアピール

I・K 最大の目的は、売り場の一等地をもらうこと。そのために、今年の目玉作品やプレゼント、前の年からパワーアップした施策や新しいチャレンジなどをひとまとめにした資料を使って書店さんにプレゼンして歩きます。

K・A 「100冊」を好きでいてくださって、こちらから強くアピールしなくてもいい場所に置いてくださる書店さんも多いのですが、やはり売り上げに結びつかないといけません。数字に裏打ちされた長年の安定した実績と新しい試みをしっかりご説明することが大切です。

I・K コロナ禍で書店さんに伺えなかった時期は、プレゼンする動画を作って書店さんに配信したこともありましたね。

M・N どこの書店さんでも夏になると必ず目立つところに「新潮文庫の100冊」があるのは、そういう努力があったからなんですね。

K・A 営業部では1年を通して100冊フェアに関連する仕事をします。春の出張では書店さんに今年のフェアの説明をして、夏の出張では実際にフェアが展開されているのを確認し、冬の出張では来年のフェアに向けたヒアリングをする。

I・K 書店員さんは読者と最も近いところで接しているので、文庫にかかわらず本のトレンドを知っています。例えば、社内では20代に読まれていると思っていた本が、書店では40~50代の人にも手に取られているよ、といったことを教えてくれる。
 2023年の100冊で好調だった國分功一郎さんの『暇と退屈の倫理学』は当初、堅い哲学書として売り出しましたが、実際に読んでいるのが20~40代の若い男女だと分かってからは、より手に取りやすいキャッチコピーに変えることで更に売り伸ばすことができました。書店の売り上げデータの分析も大事な仕事だなと感じます。