新潮選書編集部 社員インタビュー
U・Jさん

2001年入社。
FOCUS編集部、営業部、フォーサイト編集部、ウェブフォーサイト編集室、ノンフィクション編集部を経て、2022年より新潮選書編集部。

仕事の紹介


店頭をイメージしてタイトルの置き方や帯色を調整。

 入社時に配属された週刊誌は半年たらずで休刊になり、以後、電子メディアの立ち上げや月刊誌の編集部を経験しました。希望部署だったノンフィクションの単行本セクションに異動したのは34歳の時です。今はノンフィクションからビジネス書、歴史エッセイ、科学読みもの、翻訳書まで幅広く作っています。上司から「これをやれ」と言われるのではなく、自分のやりたいことを見つけてきて提案し、それをブラッシュアップして企画を形にしていけるのが、新潮社のいいところだと思います。
 2022年に『母親になって後悔してる』という翻訳書を担当しました。著者はイスラエルの社会学者で、「もし時間を巻き戻せたら、あなたは再び母になることを選びますか?」という質問に「ノー」と答えた23人の女性にインタビューし、社会が母親に背負わせているものを明らかにした本です。多くのメディアに取り上げられ話題となりましたが、一方で「イスラエルの特殊事情じゃないの?」という意見もいただきました(イスラエルは合計特殊出生率が3を超え、子を持つべきという圧力が強い国といわれています)。
 では実際のところどうなのか。日本の後悔する母親たちを取材したのが、NHKの記者とディレクターでした。その成果はNHKクローズアップ現代「“母親の後悔” その向こうに何が」として放送され、大きな反響を呼びました。その後もおふたりはこのテーマを本にまとめるために取材を続けて、私はそのお手伝いをさせていただくことになりました。
 どういうタイトルなら読者に届くのか。手に取るための後押しとなるのはどんなコピーか。読者の目を引き、手元に置きたくなるのはどういったイラストか。著者と議論を重ねて、編集部や営業部の意見などを聞きながら、少しずつ形にしていったのがこちらの本です。
 『母親になって後悔してる、といえたなら 語りはじめた日本の女性たち』
 今は本書をどうやって読者に届けるか、プロモーション戦略を練っているところです。
 自分の担当した本が、テレビの企画に繋がり、また本になる。メディアのダイナミズムを感じられるのも本づくりの楽しさの一つです。

入社後一番の思い出

 上記の『母親になって後悔してる』を担当したことです。ある時、ネットで“Regretting Motherhood(リグレッティング・マザーフッド)”という本を見つけました。世界中で話題になっているのに、なぜかまだ日本では出版されていないとのこと。さっそく翻訳者の鹿田昌美さんにお願いしてレジュメを作成してもらうと、期待は良い意味で裏切られました。議論を喚起するためにあえて刺激的なタイトルをつけていますが、内容はきわめて冷静かつ論理的で、丁寧に議論を尽くしています。誰かを悪者にしたり、排除したりすることのない著者の姿勢に感銘をうけ、ぜひ出版したいと思いました。
 とはいえ、自分は男であり、当時は子どももいなかったので、読者にどう届けていいか勘所が分かりません。そこで社内の女性たちの力を借りました。営業担当者からは女性向け実用書の流行を教えてもらい、装幀担当者とは図書館に通って女性向けエッセイで使われる書体や文字組を研究しました。タイトルやコピー、装画については、社内の母親20人以上に意見を聞きました。本をつくることも売ることも一人ではできませんが、ここまで多くの人の力を借りてつくったのは初めてでした。刊行後も社内・社外の方に助けていただき、予想以上の反響を得ることができました(この本をつくったあとに子どもが生まれ、いまは0歳児の育児に奔走しています)。

ある日のスケジュール

6:50
起床。自分の食事を手早くすませ、子どもを起こしてミルクを飲ませる。
8:15
ベビーカーで子どもを保育園に送ってから会社へ向かう。トータルで30分くらい歩くのでいい運動になります。
9:00
出社。午前中の編集部は静かなので、集中力が必要な仕事や、締め切りが迫っている仕事を優先的に進めていく。
この日は編集長との打ち合わせにむけて単行本のタイトル案を絞り込み、書評や推薦文の依頼、
新聞広告のチェックなどを行ないます。
11:00
編集長とタイトルの打ち合わせ。
案をブラッシュアップしたら編集部員や営業セクションの意見を聞き、後日、再度打ち合わせをして最終決定します。
11:45
昼食。進行中のゲラや気になる新刊を読みながら。
12:15
ゲラを読む。タイトルやコピー、装幀を想像しながら読むと効率的です。
13:30
営業部と販売戦略の打ち合わせ。読者は都市部か、ネット中心か。
プロモーションは何をできるのかなど、知恵を出し合います。
14:30
近所にある会社の施設で対談収録。
インタビューや対談のまとめは編集者の重要な仕事の一つですが、今回は単行本化のための対談なので責任重大。
しっかり準備をして臨みます。
17:00
対談の音源を確認し、文字起こしを手配。
この時間にはもう脳が疲れているので、メールの返信や経費精算など事務処理を進め、
今日の仕事に漏れがないかを確認し、明日は何をすべきかを整理します。
18:30
退社。子どもがいるので会食は週一回までに制限しています。
会食がない日は、スーパーやドラッグストアに寄って、食材や子ども用品の買い出しをして帰宅。
夕飯の支度、子どものお風呂と寝かしつけなど第二の労働に勤しみます。
22:30
子どもが寝た後は大量の洗濯と翌日の保育園の準備。すべて終わったらビールを飲んでリラックス。
24:30
子どもが夜中に目を覚まさないことを祈りつつ就寝(たいてい2回は起こされる)。

Off-Time

 以前はお酒を飲むのが一番のストレス解消法でしたが、子どもが生まれてからは飲みに出かける機会も減りました。とはいえ仕事と育児・家事だけだと息が詰まってしまうので、計画的にオフタイムをつくるようにしています。一番の息抜きは、舞台やコンサートに出かけること。日常とかけ離れた空間に浸ることで気持ちをリフレッシュできます。


この日は東京芸術劇場で野田地図の舞台を鑑賞。

わたしの「人生の一冊」(新潮社刊)


『シズコさん』(佐野洋子)

 絵本『100万回生きたねこ』で有名な佐野洋子さんですが、エッセイストとしても素晴らしい作品をたくさん残しています。特に、幼くして亡くなった最愛の兄や、折り合いの悪かった母について描いたエッセイは秀逸なのですが、その集大成とも言えるのが本書です。呆けてしまった母と、がんで余命宣告を受けた著者。ふたりの間に和解はあるのか。人間の感情の複雑さ、人生の愛おしさが溢れた作品です。

就職活動中の皆さんへ

 「就職活動が好きだった」という人には出会ったことがないので、今も昔も就職活動は過酷なものなのだと思います。人が人を一方的に判断する残酷さは、思い出すだけでもげんなりします。とはいえ、人が人を判断することには限界がありますので、あまり深刻に受け止め過ぎないことも重要です。後悔のないようしっかり準備をしたら、あとは運を天に任せてその場を楽しんでください。私は安部公房が好きなのですが、担当面接官が安部公房の最後の担当者であることがわかり、安部公房についてずっと質問していたらなぜか通りました。相性というものはあると思います。

デジタルコミック編集部

I・Cさん