2025年3月12日(水)
エントリーシート提出
「面白そう」「楽しそう」、そう思えるかどうかだけを軸に就活を進めていた。海運やエネルギーから、テレビ、新聞、政府系企業まで業界を絞らず選考に挑戦したが、志望動機やガクチカを各企業の目指す方向性に合わせようとすると、どうしても嘘が混じり筆が乗らない。しかし、出版社のエントリーシートだけは違った。分量も多く決して楽に書けるものではなかったが、質問自体が面白くて自分の経験や好きな作品と向き合いながら文章を組み立てていく時間が純粋に楽しかった。エントリーシートを書くことさえ楽しめるなら私はこの業界に行くべきなのだろうと腹を括った。それからは友人や先輩に添削してもらいながら、自分がいいと思えるまでひたすら書いては直してを繰り返した。過不足なく的確な言葉で自分の思考を言葉にできるよう、時間の限りを尽くした。
2025年3月19日(水)~24日(月)
適性検査・知能テスト(Web実施)
ここで落ちてしまったら悔やんでも悔やみきれない。市販の問題集を買い、できる限りの対策をして臨んだ。合格したと分かった時は胸をなでおろしたのを覚えている。
2025年4月8日(火)
一次面接
想定問答集を作り込み、面接練習を重ね、万全の準備をして臨んだ。場の空気に吞まれないよう、お気に入りの青いシャツにスラックスという格好で行ったのだが、会場に着くと私以外の全員がスーツで逆に緊張してしまった。面接自体は和やかに進んでいき、途中で笑いも生まれ自然と緊張は解けていた。エントリーシートを基にした質問が多かったこともあり、手応えも悪くなかった。自分へのご褒美として、新宿のピカデリーで坂元裕二脚本の『ファーストキス 1ST KISS』を観て帰った。
2025年4月17日(木)
二次面接
その日発売の『週刊新潮』を朝イチで買い、気になる記事に目を通して、お守りのように鞄に入れて向かった。雰囲気は一次面接の時より少しだけかたかったような気がする。『ガールクラッシュ』の良さや言語化ブームについて話し、面接官の反応も悪くはなかった。しかし全体としての盛り上がりには欠けていて、面接が終わった後の感触は一番悪かった。鞄から覗く『週刊新潮』最新号に、面接官が気づいていてくれて、印象が良くなったりしていればいいなと下心を抱きつつ帰路についた。
2025年4月23日(水)
三次面接
「エントリーシートを読んでいると怒りが根底にあるような気がするんだけど、どうなの?」。もちろん想定外のこの質問に頭をフル回転させながら、内心「たしかにそうなのかも」と感じていたのをよく覚えている。面接での質問を通して自分の人間性そのものについて気づきを得たのは、後にも先にもこの時だけだ。自分でも気づいていなかった自分の性質を見抜かれたようで、その鋭い洞察力に気圧されつつ、どうにか言葉を紡いでいった。うまく答えられたかは分からないが、自分と「怒り」を結びつけるものを辿りながら素直に答えることができたと思う。さらに同じ面接官の方から帰りがけに「足速い?」と聞かれ、意図が分からず困惑。どうやらその方が週刊誌編集者時代に、全速で走らなくてはならない状況があったため聞いたらしい。勢いで絞り出した「ジム通います!」という一言で面接が終わった。想定外の質問に揺さぶられながらも、ありのままの自分の言葉で答えることができたので不思議と終わった後はスッキリとしていた。
2025年4月28日(月)
最終面接
それまでの面接では可能な限りの準備をして臨んでいたのだが、最終面接に関しては評価基準が未知数でお手上げだった。おそらく会社との相性を見ているのかなと予想はしたものの、「相性の良さ」をアピールする方法は分からず、素の自分で挑むことしかできなかった。最大限自分を出せるよう、最終面接でもスーツは着ずにお気に入りの青いシャツを纏って行った。そして初っ端の質問が「なんで証明写真が自撮りなんですか?」。想定外すぎる質問に仰天した。受かった後に聞いた話では、他の面接官の方も気になっていたらしい。出鼻を挫かれたことで緊張がほぐれ、そこからは自然体で話せるようになった。「ほかの週刊誌と比較してなぜ『週刊新潮』が良いと思う?」「なぜスーツじゃないの?」(趣味にパピルス作りと書いていたので)「作ったパピルスは何に使うの?」「好きな作家は?」など、様々な質問が投げかけられ、一つ一つに自分の言葉で答えているとあっという間に面接が終わった。とても楽しい時間だった。結局何を見られていたのかは分からず、手応えもなかったが、これで落ちたら仕方ないかと思えた。そう思えたことが嬉しかった。
最終面接まで着て行ったお気に入りの青いシャツ。だんだん自分だけスーツじゃない状況に慣れていった。
面接終わりに行っていたバー。ちゃんと息抜きをするようにしてからの方が、就活がうまくいくようになった気がする。
飼い猫。なによりの癒し。


