内定者の就活日記

走ってたら、追い越してた。

四年制大学 卒業見込み/環境学専攻

2025年3月12日(水)
エントリーシート提出

地方大学在学、出版就活仲間無し、情報は各社公式採用サイトのみという状態で、私は出版社に就職することを決意した。みんながキラキラと進む王道ルートにつるりと参入する気が起きず、冬に差し掛かるまで就活をほとんど何もしていない状態での決断だった。正月、父親に「今年の目標はジャイアントキリング」と宣言したことを覚えている。
どんな会社のESを書いても、後ろめたかった。劇的なドラマが特に思い当たらない私の人生では、たいていの質問項目に嘘をつくことになってしまう。しかし新潮社のESを埋めていくのは本当に楽しかった。等身大の自分の話ができて、多少ふざけられる余地さえ感じられた。期待を胸に、私はESをアップロードした。

2025年3月19日(水)~24日(月)
適性検査・知能テスト(Web実施)

テスト対策を全くしない状態で受けたテストにはすべて落ちた。今思うと当然だが、対策していなくても別になんとかなるのでは?と初めは思っていた。テストの重要性を理解してからは、ベタにカフェにこもって勉強した。出てくる問題の傾向を覚えてしまえば落ちることはなくなったので、皆さんも対策はお早めに。おかげで新潮社のテストにも手ごたえがあり、無事に通過した。ここまでやってようやく直接社員の方々とお話しできるのだ。めちゃくちゃうれしかったが、あくまで通過点と思って、結果を粛々と受け止めた。

2025年4月9日(水)
一次面接

オンラインで受験。オンライン面接はただでさえ面接官の反応が分かりづらくて正確な手ごたえを得にくいのに、直前にパソコンが不調をきたしてスマホで受験することに。ブラウザの都合で全画面表示もできず、極小の画面で面接官と話すことになってしまった。『成瀬は天下を取りにいく』の例を挙げて、書籍が地方を盛り上げることの面白さ、大切さなどについて話したことを覚えている。スマホの向こうの、表情もまともに読み取れない2人に私という人間をできるだけ伝えるために、大きな声で朗らかに、しかし軽薄にならないように努めて話した。
やはり手ごたえは感じられなかったが、後に面接官の方に一次面接は良かったと言っていただいた。分からないものだ。

2025年4月17日(木)
二次面接

ついに対面での面接。東京に土地勘がなく、市ヶ谷とやらにまっすぐたどり着く自信がなかったので、早朝の新幹線を選んだ。会場まで、緊張を振りほどくように革靴で東京の街を散歩した。
たくさんの受験者が待機している。みんな優秀そうだ。ブースから面接中の声が聞こえる。自作の本を持ってきた受験者がいるようだ。こんな人たちと戦えるのだろうか。それまで読んできた本の感想を書いた、新潮文庫の『ほんのきろく』をぱらぱら見返しながら順番を待っていた。
しかし面接本番は楽しい。支離滅裂なことを話しながら、なんとか自分の面白さに気づいてもらおうとしていた。すっかり面接官に懐いた私は、面接終了後についランチのおすすめを聞いてしまった。歩いてその店に向かいながら、こんなことをしていいのか?と後悔した。

2025年4月23日(水)
三次面接

再び東京へ。早起きと緊張で体調は意味不明、新幹線で読んだ本は全く頭に入らなかった。二度目の市ヶ谷には自信があったので、道中では知らない本屋さんに入ってみるという荒業も飛び出した。
三次面接が最も恐ろしかった。新潮文庫の改善点は? 新潮社の新しい売り込み方は? 質問が具体性を増し、一挙手一投足全てが精査されている感覚だった。これまでの生活で得た気づきや、書店員アルバイトの経験など、私という私を総動員してなんとか面接を終えた。二次を通過したことで許されると判断し、今回もおすすめのランチを聞いた。4人の面接官が楽しげに話し合い始め、純粋にこの人たちと働きたいと思った。
実家に戻り、その夜は結果発表の夢を何度も見た。なぜかどの夢でも、受かったかどうかまでは分からなかった。

2025年4月28日(月)
最終面接

ついに新潮社本館に入る。あまりに堅牢で、私なんかでは侵入できないものと思っていた。前日友人たちに依頼して、面接の予定時刻は東京方面に祈りをささげてもらうことになっていたから、負けるわけにはいかなかった。
大会議室に入ると、嘘みたいに長い机に明らかに偉い人たちがずらりと腰かけていた。私という人間を深掘りする質問が多かったからなのか、はたまた現実味がなさ過ぎたのか、不思議とリラックスして話せた。
面接後、今回もやはり聞いたおすすめレストランに向かうと定休日だった。嫌な予感がしたが、それを上回るほどに受かる気がしていた。東京で暮らす友人と合流して、内定の瞬間を見届けてもらった。勝ち目なんかないと思えた出版就活は、あっけなく終わりを告げた。みんな、ありがとう。

就活期に入る前からつけていた『ほんのきろく』。一度読んだ本のことはベラベラ話せるようになっておこうと、面接前に必ず読み返していた。

私が音楽にハマるきっかけになったバンドのライブ。4月のどろりとしたストレスを晴らすには十分すぎるほど良かった。

愛しのマイギター。ESを10分書いて、これを50分弾く生活を送っていた。

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