仕事を知る
SHINCHOSHA WORK
「どんな人でも好きになれる一冊がある」
新潮文庫の100冊フェア
TikTokの「中の人」
M・N そういったデータも含め、営業部がリアルな“読者の感覚”を書名選びの際に教えてくださるので、とても参考になります。
私も2023年からチームに入ったのですが、プロモーション部は主に外部のクリエイティブチームと協力して、フェアを盛り上げるための宣伝物、プロモーション施策を考えています。
S・M 外部のクリエイティブチームと社内のチームとの橋渡しをしながら、全体のビジュアルコンセプトを固め、どの作品をどんなトーンで売るのかという方針をまとめていくのが、私たちの役割です。
一番力を入れるのが店頭で使用する宣伝用の販促物で、パネルやポスター、プレゼント用の限定しおり、本棚に貼るシール、手書きPOPなど、毎年さまざまなアイテムをつくります。
M・N 100冊の”顔”とも言えるプレミアムカバーのデザインをクリエイティブチームと協力しながら練り上げるのも、私たちの大事な仕事の1つです。8作品を選んで限定カバーをつくるのですが、単色無地の背景にタイトルだけというシンプルなデザインながら、色合いやフォントやタイトルの位置を工夫して毎年変化をつけています。
O・Y 2023年は『こころ』(夏目漱石)や『人間失格』(太宰治)、『ティファニーで朝食を』(トルーマン・カポーティ/村上春樹訳)などが選ばれました。カバーがお馴染みになっている名作が、プレミアムカバー書名になることが多いですね。
S・M プロモーション部ではこの他に特設サイトの立ち上げ、新聞広告やSNSを使った宣伝を行い、2022年からはTikTokも始めました。
M・N 若い人に対するTikTokのアピール力は抜群で、2022年のフェアで公開した浅原ナオトさんの『今夜、もし僕が死ななければ』(新潮文庫nex)の動画は、なんと1000万回再生されました!
K・A そのおかげで約4万部の重版がかかり、初版1万6000部から夏の終わりまでに5万7000部に増刷されました。それ以降もどんどん売れて、現在9万4000部まで来ています。
一同 素晴らしい!!!(拍手)
M・N TikTokを作るときは新入社員の意見をかなり参考にしました。私達が全然知らないようなトレンドの言い回しやTikTokの活用法について意見がバンバン出てきてビックリ!
O・Y 100冊フェアは若い人の意見がとっても大事なので、私も自分の子どもや甥に10代の感覚を教えてもらったりしています。
込山 ちなみに、TikTokには新潮文庫のキャラクター「キュンタ」が登場しますが、キュンタの声は文庫編集部の部員が当てているんですよね?
H・M はい、中の人です(笑)。
O・Y 社内に美声の方はたくさんいても、明るさとユーモアがある美声の持ち主はそういません。
S・M しかもどんどんスキルアップしていて、ついついみんな「怒っているけど深刻になりすぎない声色で」とか無茶ぶりを……。
H・M (笑)。
新潮文庫の思い出
S・M キュンタが登場したのは2014年ですが、それ以前はYonda?、その更に昔は桃井かおりさんや坂本龍一さん、宮沢りえさんなどの俳優やミュージシャンが広告に登場していました。
O・Y 私の中高生時代が、まさに宮沢りえさんと永瀬正敏さんでした。その後、1998年にYonda?が登場し、2003年にYonda?をイラストレーターの100%ORANGEさんが手がけることになった際には、新潮社ってこんなカッコイイことをする会社なんだ! とワクワクしました。
M・N Yonda?のキャンペーンを覚えていますか?私は本が沢山ある家で育ったのですが、小学生の時にどうやら新潮文庫のカバーについている三角の応募券を集めると可愛いパンダのグッズが貰えるらしい、ということに気がついてからは、家じゅうの文庫をめくり、キーホルダーやマグカップを貰いました。
O・Y そのキャンペーンで貰ったカフカの腕時計を大学時代に着けていました!
I・K 僕は高校受験の時に国語の過去問で『海と毒薬』(遠藤周作)を読んで凄く衝撃を受けたんです。思わず本屋で買って両親に勧めたら、2人とも持っていて(笑)。だから、うちには『海と毒薬』が3冊ある。実家に帰省するたびに、本棚に並ぶ3冊を見ると、あの時の衝撃を思い出します。
一同 すごく良いエピソード!!!
H・M 私が初めて読んだ新潮文庫は100冊フェアで買った『夏の庭』(湯本香樹実)か『ボッコちゃん』(星新一)のどちらかなんですよ。実は今どちらも担当していて、新しい帯を考える度に、初めて読んだ時のことを思い出し、30年前くらいの自分に再び会っているような感覚になります。歴史が長い新潮文庫だからこそ体験できることなのかなって思います。
S・M どんな時も、どんな人でも、きっと好きになれる一冊がある――。そんな思いを込めて、2023年のお正月に「いつだって、出会ったときが最新刊」という新潮文庫の新聞広告を出しました。これこそまさに幅広いラインナップがある新潮文庫の強み。それを広告で伝えられたのは嬉しかったな。
K・A 文庫の話とはズレますが、僕は新潮社の一次面接で、年間読書量が少なすぎて面接官の人に「もっと盛ればいいのに」と言われたのが思い出です(笑)。
I・K 僕は現代作家の作品をあまり読んでいなかったのですが、それを最終面接で突っ込まれて、「あ、落ちたな」と思ったら、受かっていた。懐の広い会社だなと思いました。
アイデアを出せば採用される
S・M 本が好きな人はもちろん、新しいことにチャレンジしたいという人にも是非入ってきて欲しいですよね。
M・N 私は新潮社に入って日が浅いですが、皆さん本当に真面目だなという印象を受けます。
一同 (爆笑)。
M・N 100冊フェアでは、10~15冊に手書きPOPを、それとは別に5冊前後に特別帯をつくるのですが、手書きPOPの言い回し1つとっても、特別帯のキャッチコピー1つとっても、みなさん一言一言、丁寧に見る。
I・K 僕も別の会社を経て入社したんですが、驚いたのは自分のアイデアがすぐに採用されること。以前勤めていた会社は大きな企業だったこともあって、新入社員なんて末端の末端。上の決めたことをただこなすのが仕事でした。けれど今は、「こうしたいです」と提案すれば、「じゃあやってみれば?」と。もちろん、裁量権がある分、責任の重さも感じます。
S・M 確かに新潮社は、アイデアを出せば採用される土壌がある会社だと思いますが、それには根拠が求められる。その点、今の若い人は、すごく具体的に「こういった理由で、こうしたい」と示してくれるので、本当に頼もしい。
K・A 実は今から、2024年の100冊フェアはもちろん、2026年、「新潮文庫の100冊」50周年に向けて既に動き始めています。この座談会を見て入社してくれた人の中にも、50周年フェアに携わる人が出てくるかもしれません。沢山の人の手にとってもらえる「新潮文庫の100冊」を、これからもチーム一丸となって展開していきましょう!
一同 おお~~~!(拍手)